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ある卵巣がん患者配偶者の記録

2015年1月から9月までの戦いの日々

セカンドオピニオン

朝6時からビデオ会議で仕事の打ち合わせを済ませたあと、父親の運転でセカンドオピニオンのため大阪の病院へ向かった。

妻本人は安静のため実家で待機。

大阪ではまず妻の実家に寄って、義母をピックアップしていくことになっている。義母はこれまで妻の病状については伝聞できいているだけだったので、直接医師から話を聞けるよい機会だと思い、同行してもらうことにした。

妻の実家に予定より早くつきそうだったので、妻の父親のお墓参りに行くことにした。

売店で線香とロウソクを購入し、墓石のあいだをかきわけていく。

墓前には、まだ新しい生花がいけてあった。きっと義母が欠かさずに手入れに来ているのだろう。

何度も寒風にかきけされながらも何とか火をつけ、手を合わせ、祈った。くれぐれもそちら側に行ってしまわないように見守ってやってくださいと祈った。

それから義母をピックアップして病院へ向かった。

市街地にあるその有名病院は、思ったより古い建物だった。移転したばかりでピカピカの県立病院にくらべると外来の動線もイマイチで、大通りに面していたのは裏口だったらしく、受付までたどりつくのに迷路のようなルートをたどっていかねばならなかった。これは足が悪くて杖をつきながら歩く義母には大変なことだった。

セカンドオピニオンの受付をし、病院の地下にある食堂で昼食をすませ、婦人科の前でひたすら待つ。

名前を呼ばれて入って行くと、婦人科部長のK医師は速達で送付してあった検査データを画面に表示していた。

そして、血液検査の数値でAFPとLDHが高いことから胚細胞腫瘍のひとつである卵黄嚢腫瘍あるいはディスジャーミノーマが疑われること、あるいは卵巣ガンならば類内膜腺癌がありうること、MRIやPET-CTの映像を見た感じでは片方の卵巣に病巣部が限局しており、おそらく卵巣悪性腫瘍Ia期であること、ただしIa期と思っていてもリンパを生検してみると転移がみられることも15%程度あること、などを説明していった。

父と義母は、MRI画像をみるのは初めてだったので、その卵巣の腫れの大きさをみて改めて驚いた様子だった。

いろいろと聞きたかったことを聞いてみた。

「主治医からは、この壁在結節は明細胞腺癌かもしれないと言われたのですが、先生からみてどうでしょうか」

「わかりませんが、これはきっと違うと思います」

実は、初診と再診のあいだにセカンドオピニオンの申請書を準備していたので、質問内容は初診の結果にもとづくもので、標準術式として言われた両側の卵巣、子宮、リンパ、大網まで全部切ると言われたのだが、明確な病巣部である患側付属器(卵巣と卵管)だけの切除という縮小手術はできないのか?そういう選択をした場合のリスクは?というのがもともと聞きたい内容だった。

しかし、その後の再診で胚細胞腫瘍の可能性がでてきたことで、患側付属器のみの切除ですませられる可能性がでてきていた。

そのことについて触れると、

「縮小手術は、妊孕性の温存を強く希望される場合にのみ行います。お話をうかがっていると、どうも縮小手術の動機が妊孕性の温存とは違うところにあるように思いますので、おすすめしません」

と、にべもなくバッサリ。

そのとき、考えはまとまらなかったが、標準治療として定められているロジックを杓子定規にあてはめていこうとする医師の姿勢に、強い違和感を感じた。どちらに転んでも生涯その選択の重みを背負って生きていくのは患者本人なのに、なぜ患者が自己決定してはいけないのか。なぜ動機の種類を問題にされなければいけないのか。

とはいえ、限られた時間で医師と論争しても生産的ではないので、短い時間で最大限の情報を引き出すべく、つづけて質問をした。

術後の感染症のリスクは5-6%程度であること、リンパ節郭清をした場合にリンパ浮腫などの後遺症が残る確率は30%程度であること、またリンパ節郭清した場合にどういうふうにリンパ液が回収されるのかという質問には、皮膚の下を通って自然とルートが形成される場合には後遺症が残らない、とのことだった。

また、先ほどの話の流れで患側付属器しかとらないという前提の話はしにくくなっていたので、「再発」を「併発」と言い換えて聞いてみた。

「今回の胚細胞腫瘍の場合、もう一方の卵巣に併発する可能性ってどのぐらいあるんですか?」 「ほとんどが片側性です」

ここまで約35分、個人的に準備してきていた質問はひととおり聞けたので、セカンドオピニオンに割り当てられていた時間である45分より少し早くなったが、切り上げることになった。

やはり、医師とディスカッションするためには患者サイドもとことん勉強しておく必要がある、ということを改めて感じた。今回、同席していた父と義母は、2-3の点について質問というよりは確認に近いような応答をした程度で、あまり突っ込んだ質問をするということはなかった。せっかくお金を払って専門家に何でも聞ける貴重な時間をいただいたのだし、相手は主治医ではないのだから遠慮をする必要はまったくないのだが、ほとんどのやりとりは私と医師との間で行われた。

私は、これまでの診察を通じて、事前に質問したい内容をメモにまとめてくること、話の最中に気になったことはメモにとること、などの重要性を実感した。医師との面談中には想定外の新しい情報がでてくることがあり、そうすると動揺してしまって何を話そうとしていたのか忘れてしまうことがある。そういうときにメモは大変役に立つ。

それだけではない。世の中のあらゆるプロフェッショナルと同様に、医師は大変忙しい。その医師の時間を尊重し、短い時間で最大限の情報を引き出す濃厚な時間を持つように心がけることが、「患者力」を高めるコツであると思う。

そんなこんなで、どちらかというと事前に得ていた知識の再確認という位置づけにはなったが、セカンドオピニオンはやってよかったと思う。大阪のブランド病院の婦人科医師だからといって、誰も知らないようなことを知っているということもなく、これが現代医療の水準なのだということを確認するという意味合いであっても。

明日はいよいよ入院。