ある卵巣がん患者配偶者の記録

2015年1月から9月までの戦いの日々

入院

いよいよ待ちに待った入院。

入院に「待ちに待った」という表現を使うのは不思議かもしれないが、どうしようもない腹部の膨満感を抱えたまま、どんどん大きくなる嚢胞がいつ破裂するかもわからない状態で待ち続ける不安は大きかったので、正直、この日を迎えられた安堵感は相当なものだった。

朝一番で入院の説明をうけて手続きをすませ、そのまま荷物を持って5階の東病棟へと向かった。そこで身長と体重、血圧などの計測をすませ、ナースステーション近くの個室へと入っていった。

この日から術後3日目までは個室なので、プリペイドカードを購入して冷蔵庫とテレビの電源を入れ、下のコンビニで水などを買ってきて冷蔵庫に入れ、WifiルーターをセットアップしてパソコンやiPadを使えるようにした。

横になることができない妻のためにベッドの操作を確認し、体を起こした姿勢でいられるようにした。

とはいえ、手術は2日後で、看護師がぱらぱらと説明にくるぐらいで、特にこの日の予定はなかった。主治医の回診でも「明日は絶食ですが今日は特に制限はないので、ゆっくりしてください。食事も好きなものを食べていいですよ」と言われたので、食事も病院食をたべず、下のカフェテリアに食べに行った。

ところでこのカフェテリアの出す食事がけっこう美味しく、以後、何度もくることになるのだが、この店の名前とロゴ、セカンドオピニオンで行った大阪の病院でも見かけた気がする。もしかしたら病院を専門にしているチェーンか何かなのかもしれない。

昼過ぎ、H医師が病室へやってきた。

「手術の説明をしますので、面談室へ一緒にきてください」

談話室の隣にある面談室には、パソコンが置いてあった。そこで今までの診断内容をおさらいしつつ、インフォームドコンセントのため双方の理解を文書にまとめていく。

悪性胚細胞腫瘍の疑いがあること、主にAFPが高値であることからは卵黄嚢腫瘍、LDHが高値であることからは未分化胚細胞腫瘍、MRIで脂肪成分があることから未熟奇形腫が考えられること。また、CA19-9とCA-125が高値であることと壁在結節の存在から、上皮性卵巣癌合併の可能性も否定できないこと。超音波とMRIからも上記を疑う。PET-CTでは片側卵巣以外には明らかな転移をうたがうシグナルは認めないこと。現在の症状は腹部膨満、疼痛、頻尿。

それから、手術の内容についての説明がはじまった。Wordで用意されたテンプレートをもとに、医師がその場で文章を打ち込んでいく。

手術を選択する理由は、根治的な治療が期待できること。限界としては、病理検査の結果悪性が確定した場合には追加治療が必要になること。

術式としては、患側付属器の切除。恥骨から臍下部まで(必要なら頭側へ延長)の下腹部縦切開で開腹し、卵巣・卵管を摘出して術中凍結病理へ提出。悪性胚細胞腫瘍・境界悪性胚細胞腫瘍であれば、患側付属器切除、大網生検、腹腔内の十分な観察(切除可能な病変があれば切除)、腹水細胞診を行い、閉腹。

ここまで入力したところで手術同意書をプリンターで出力し、二人でサインした。

また、麻酔と輸血に関する同意書にもサイン。貧血気味であったことと期間に余裕がなかったことから、事前に自己血を貯血することができなかったので、長時間かかるなら輸血の可能性がでてくるが、H医師の経験では輸血が必要になるようなケースはごく稀で、とくに6時間ぐらいかかる標準術式にくらべて今回の内容は時間も短いのでまず大丈夫だろうとのこと。

妻は夕方にシャワーを浴び、就寝準備。

私もベッド脇のソファベッドをたおし、持ってきていた毛布を敷き、泊まりの準備をした。

そして持ってきていた書籍とiPadでリサーチを再開。

消灯時間がきてからも、ソファベッドで横になったままiPadとにらめっこする日々がはじまった。