ある卵巣がん患者配偶者の記録

2015年1月から9月までの戦いの日々

子宮内膜症

今回のことで学んだことのひとつ、子宮内膜症

妻は、20代の頃から生理痛が強かった。場合によっては、下腹部だけでなく、腰痛や頭痛もあった。

とはいえ、生理痛というのは多かれ少なかれ誰にでもあるものだと思っていたし、この程度は個人差にすぎないと思っていた。

しかし、結果的にいうと、この生理痛は子宮内膜症によるものだった。

なぜそれが断言できるかというと、卵巣を摘出したあと予定通りきた最初の生理で、痛みがまったくと言ってよいほどなかったからだ。

生理痛というのは、基本的には子宮で増殖して分厚くなった内膜がはがれおちるときに内膜細胞から分泌されるプロスタグランジンによる痛みだといわれている。このプロスタグランジンが子宮の筋肉に働きかけ子宮を収縮させるが、これは月経時の血液の排泄に必要な作用である。ところがこのプロスタグランジンの産生が過剰になると、子宮が過剰収縮して流れ込む血液が減り、子宮の筋肉が酸欠状態となり、その筋肉からの悲鳴として疼痛という症状が引き起こされる。 これを虚血性疼痛という。

一方、子宮内膜症というのは、本来ならば子宮の内部にだけ存在する内膜が、何らかの理由で子宮以外の場所にできてしまう病気だ。この子宮以外の場所にできた子宮内膜も、エストロゲンの影響を受けて本来の子宮と同じ周期で増殖・剥離を繰り返す。また過剰に産生されたプロスタグランジンは体循環にも流れ込み、消化器症状や頭痛などの症状も引き起こす。したがって、痛みを引き起こす因子の総量も増えていくというわけだ。

子宮内膜症が発生するメカニズムとしては、月経時に剥がれ落ちた子宮内膜のうち体外に出ることができなかった一部が、卵管を逆流して卵巣や腹部臓器に達して定着してしまい、増殖するという説が有力視されている。

また、意外と知られていない事実として、卵管の先っぽのラッパのように広がった卵管采、これは普段は卵巣と接触しておらず、排卵が近づくと卵巣のほうへどんどん伸びていって、卵胞とドッキングして内部の卵子をキャッチする。

このため、卵管を逆流してきた血液と子宮内膜の細胞は、卵巣の中に入り込めばチョコレート嚢腫を形成するし、卵管采からこぼれて腹腔内に落ちれば子宮の外側であるダグラス窩や直腸などにはりついてしまい、癒着を起こしたりする。このいずれも、妻の体内で起きていたことだった。

つまり、卵管を逆流した細胞が大腸まで到達できるということは、実は閉じた体内だと思っていた腹腔という空間は、解剖学的にいえば卵管・子宮・膣を経由して外界に対して開かれているということになる。この「外界との交通性」を逆手にとって検査につかうことも実際に行われている。

たかが生理痛、されど生理痛。

こうした背景がわかってくればくるほど、あらためて人体の神秘のようなものに嘆息せざるをえない。