ある卵巣がん患者配偶者の記録

2015年1月から9月までの戦いの日々

妻の涙、レンタル車庫、本とのお別れ

4am前に目が覚める。ベッドの上で懸命に足を動かしている。足のむくみがどうしても気になるのだろう。

妻の足をマッサージしているとだんだん目が冴えてきたので、しばらく起きて病気についてあれこれリサーチ。

6am頃、また眠くなってきたので入眠。

7:30am頃、スタバでコーヒーを買ってきて欲しいといって起こされる。まだ眠かったのでもう少し寝させてくれと返事するが、そしたら下のカフェテリアでもいいからお願い、といわれてしまう。

そうこうしているうちにナースのシフト交代。妻は昨夜は10段階の4だった痛みが今朝は5-6になっていることを伝える。退院準備のため、昨日から一度もPCAポンプのボタンを押さずに我慢していたのだった。ナースは褒めてくれて、でも痛いのなら使っていいんだよと言われ、その場でボタンを押す。その後は飲み薬に切り替えへ。

8amに隣のTargetに入居しているスターバックスへ。コーヒーとチョコレートクロワッサンを買い、持参した空のThermosにお湯を入れてもらって持ち帰る。昨日のパンの残りとオレンジを食べる。

妻が、親友のKちゃんたちが毎日メッセージくれるんだよ、といってiPadを見せてくれる。受け取って読んでいると、妻の目から涙がこぼれてきた。「もうすぐ会えるから」と妻の手をにぎりしめる。ちいさくて、かぼそくて、とても温かい手だ。

妻が働いていた居酒屋のマネージャMさんから届いていた、去年分の源泉徴収票W-2の原本(確定申告時には写真を撮って送ってもらった)と手紙とお守りを開封。受領確認とお礼のメッセージを自分で書くという。

9am、病棟内を歩きに行く。点滴棒につかまらず、自力でしっかり歩く。

10am、入浴前の足マッサージ。

10:30am、入浴。

11am、フィジカルセラピストがきて歩行バランスのチェック。

12pm、引っ越しで日本に送れないものがいくつかあるので、車と一緒に預けられるレンタルガレージを探していたのだが、自宅から近くて良さそうな物件を見つけたので実物を見に行くことに。$175/月のところ、最初の3ヶ月は半額の$88/moというリーズナブルな価格。

空調がないのでラスベガスの猛暑が心配ではあったが、あれこれ探してる時間もないので、MINI Cooperがきっちり入ることをその場で確かめて、即決。契約書には現地の友人たちの名前も併記し、鍵も渡して、月に一回ぐらい車にエンジンを入れてもらうことをお願いする。

そして次に取り組んだのが本棚の整理。いつも引っ越しの時に困るのが本棚で、その重さのために小さい段ボール箱を大量に消費してしまう。

私はあらゆるものをデジタル化することにしていて、数千枚あったCDアルバムは全てMacに取り込んでiTunes Matchでクラウド化、数万枚ある写真も全てMac上にありFlickrクラウド化、VHSやDVDもデータ化してMacに取り込んでおり、物理的な記憶デバイスは入手が極めて困難なものやアーティストの友人たちの作品以外はぜんぶ処分していた。

しかし書籍類は電子化が遅れていて、引っ越しするたびに本棚をひとつづつ減らしたり、Kindleで買い直せるものは買い直して紙の本は処分したり努力してきたけれども、特に日本語の本は電子版がないものも多く、扱いに困っていた。

そこで今回は、とにかく時間がないということもあり、30年近くかけて集めてきた一冊一冊に対する思い入れや未練をぜんぶ断ち切って「ダンボール一個分だけ日本に送り、あとは全て処分(図書館に寄付)」することにした。アメリカの図書館は、あらゆる言語の書籍の寄付を受け付けていて、行くところに行けば日本語の本も結構置いてあるのだ。

なかには、大学時代の友人で芥川賞を受賞した作家の本や、去年、文学賞を受賞して作家デビューした弟の本(日本語と英語翻訳版の両方)、そして自分の書いた本や寄稿した雑誌などもあったが、あとで買い直せるものなので、思い切ってぜんぶ寄付してしまうことにした。そうしたほうが、アメリカで日本語を勉強している誰かの目に触れて思いがけない運命を生むかもしれないという希望もあった。私は自分の40年の人生で、こういう思いがけない出会いというものは結構あるものだと感じている。そして、その出会いがその人の人生を決定的に変えてしまう、ということも何度も見てきた。だから確信に近い気持ちをもって、この本たちに「いい読者を見つけてくれよ」と声をかけながらお別れを告げることができたのだった。(こんなブログを書いているのにも、そういう出会いに期待する気持ちが少しはあるのだ)

段ボール箱を組み立ててガンガン本を詰め込んでいき、近くの図書館へ持っていく。聞かれてもないのに司書に「これはうちの弟が書いた本なんだよ」などと説明しながら整理棚に並べていく。言いながら、涙がうかんでくる。古いものだと30年近くもずっと私と一緒に過ごしてきたのに、遠く離れた異国に置き去りにされてしまう本たち。お前たちのかわりに、大切な妻を祖国に連れて帰るから許してね。

結局、車で2往復の計5箱分の書籍を寄付することで、本棚ふたつ分のほとんどすべてを処分できた。

2:30pm、痛み止めのピルを飲むかどうかきかれたが、我慢し、ステロイド注射。

その後、抜糸。

3:30pm、30分ウォーキング。

4pmぐらいからだいぶ痛みが出てきていたが、耐える。

5pmにも30分ウォーキング。

8:30pm、痛み止め錠剤Roxicodone 15mgを飲んだ。これは8時間おきに飲める頓服薬。期待したほど即効性がないが、2時間後の10:30pmぐらいに効いてきた。

11pmぐらいに足湯。