ある卵巣がん患者配偶者の記録

2015年1月から9月までの戦いの日々

40歳の誕生日

とうとう、この日を迎えられた。妻は今日、40歳になった。

最初にガン告知された1月。早すぎる再発を告げられた4月。

何度も奈落の底に突き落とされ、もしかして39歳で生涯を終えることになるのか?と恐怖におののいた日々。

これほど、妻の誕生日が待ち遠しかったのは初めてだ。

目が覚めると、昨日送った誕生日メッセージに対して妻から返信がきていた。


人の出会いってフシギだよね。。。

一緒に楽しい時間を過ごせたこと、たくさん支えてもらってほんと感謝してます。

「笑う門には福来たる」

ありがとね。

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一言一言を噛みしめる。

「過ごせた」というさりげない過去形に、妻なりの覚悟のようなものを感じたり、希望を失ってないことを感じたり。万感の思い、とはこのことだろうか。

これまでの人生でも、妻がメールを書く時には日本語でも英語でも作文を手伝ったことも多くあり、妻がどういう思考回路で文章を書くか、どういう言葉を選ぶか、そこまでは言わなくていい、と判断するポイントなど、クセは誰よりもわかっているつもりだ。その妻が、視力も衰え指の動きも不自由になってくる中でがんばって書いてくれたこの文章から、たくさんの思いを感じることができる。

妻とは、お互いこのやりとりの内容についてとくに触れない。メールはメールで完結しており、どう受け取けとるかは自分次第、ということ。

(この日記を更新しているのは2017年2月だけれど、いまでもときどきこの日記を読み返す。これが妻からの最後のメールなのだ。)


8am過ぎに自宅に電話すると、今日の誕生日の外出で運転手をつとめてくれる父がまだ起きてないという。

8:30am頃に電話がかかってきて、カツラを医療連携の仕組みを通さずに勝手に買うなとか言ってくる。昨日そういう話をしてたのに、今さら急にそんなこと言われても。。。お互いちょっと不機嫌になる。

その後、呼んでも返事しなくなった父を置いて母だけ先にくるみを連れて出てきたという。いやな予感がする。。。こんな大切な日に両親が揉めて台無しにして欲しくない。

9am前、妻も外出着への着替えと化粧が終わり、出発の準備が整う。

車椅子を出して談話室へ。むくみのせいで左目が少し腫れぼったいが、特に気にはならない。

その後、父と電話して話すと、妻を朝っぱらから連れ回すのが心配だったが、本人から輸血のおかげで貧血もなくなり体調が絶好調だと伝えることで、誤解が解ける。

出かける前に体重測定。42kgちょっと。

天気は最高に良く、青空が見える。

9:30am、父が病院に到着して、車椅子をトランクに積み込み、移動開始。

4月以来、2ヶ月半ぶりの純粋なレジャーでの外出。待ちに待ったこの日がきたことに感極まって、車の中で少し涙がこぼれてしまう。妻は、愛犬と1ヶ月半ぶりの再会。愛犬の興奮がなかなか収まらない。

10am、予約してあったアデランスの医療用ウィッグANCSへ。バリアフリーでない古い建物の入り口や狭いエレベータに阻まれながらも、なんとか到着。そこの店長は、正直にいろいろとアドバイスしてくれる人で、アデランスは医療用ウィッグの市場では後発で、既成品のラインナップが少ないこと、とくに妻の小さな頭のサイズにあうものがあまりないので、他社の製品をよく見てきたほうがいいと言ってくれる。35,000円ぐらいの商品もあったが、たしかに大満足というわけではなかったので、他にもあたってみることにする。

11am、お昼まで少し時間ができたので、三越のウィッグ販売店、フォンテーヌへ。小さな店舗で、品揃えは多くない。医療用は10万円からで、アフターケアは充実してそうだが、値段も高い。ここでも即決はせず、カタログをもらってくる。

12pm、ランチ予約していたサンポート高松のほぼ最上層29階、日本料理の「若竹」へ。香川県の最高層ビルから見下ろす絶景を堪能しながら、うなぎ柳川御膳とステーキ御膳を2つづつ注文する。結構なボリュームがあったが、妻はほとんどの食材を少しづつだが食べることができた。

その後、車椅子でサンポートの中を見てまわり、フレッシュネスバーガーや、ラーメン屋の集まったフードコートなどをぶらぶらする。そしてサンポート北側の大きな芝生のある広場で愛犬におしっこさせる。

2pm、予約してあったスヴェンソンのウィッグを扱っている丸亀町のエルタン高松へ。ここでいよいよサイズもカラーもぴったり、妻も気に入り、価格も20%割引で5万円を切るショートヘアのウィッグを見つけたので、購入を決定。いろいろ手入れ用のオプション品を勧められたが、とりあえず本体だけを買って帰る。

3pm、喉が渇いたので近くのスターバックスへ。妻はチョコレートクランチフラペチーノという濃厚なアイテムを注文。私は100%フルーツジュースダブルスクイーズという、バナナとラズベリーがメインだが、りんご、ぶどう、レモンも混ざったカゴメOEM商品をオーダー。ゆっくり幸せな時間を過ごす。

その後、ケーキ屋のラ・ファミーユで妻の大好きな五剣山バウムクーヘンをゲットして、ピッタリ予定通り4pmに病院へ帰る。

妻はやはり朝から7時間の外出で疲れたらしく、足の浮腫みも出ていた。体を清拭してもらい、義母とFaceTimeで話したあと、理学療法士のTさんに足のマッサージをしてもらってる間にうとうと眠ってしまった。

お昼をしっかり食べたのでお腹も空いてこないらしく、眠気が勝っている様子だったので、今のうちに自分は銭湯に行ってくることに。

7pm前に銭湯から病院へ帰ってきても、やはりまだ食欲はないとのことだったので、一人で食堂へ行ってきつねうどんを食べてくる。クリームパン、ヤクルト、ゼリー、おむつなどを買って帰る。

薬は、ALPとγ-GTPの値が高かったことから、やはり骨転移よりは胆道系の閉塞が疑われるということで、今日からウルソが毎食後に追加。

少し目が覚めたようなので、Crunchyrollで「家政婦のミタ」を2話ほど観る。

10:30pm、就寝。

とっても素敵な、充実した一日だった。